しんかい3300 水深3300mm、1.3気圧への挑戦
 試作その1 試作その2

(偽)メカニマルのページにも書いたのですが海洋科学技術センターの一般公開でRC潜水艦のデモを見てきました。
日本でも十本の指に入るであろう潜水艦が十隻以上(日本語が変ですが)デモしているのを見れば工作好きの人間として自分でも作りたくなるのは当然です。
ということで来年の一般公開までに完成させることを目標に製作を開始しました。
最近は日本でも潜水艦キットが出てきているので、それを買っても良いのですが、出ているのは軍用艦ばかりなので、潜水調査艇が欲しい私はいきなり完全自作です。

要求仕様

外形

「しんかい6500」か「わだつみ」のどちらかにしようと思っていたのですが、RCサブをやっている人から一軸艦の場合、スクリューの回転の反動でかなり船体が傾くという話を聞きました。フルスロットルにすると真横まで傾くとか。
それを押さえるためには「しんかい6500」のように船体左右に垂直スラスターがある方が有利そうなのでとりあえずしんかいでいくことにします。
外形がしんかいで深度が3.3mならば「しんかい3.3」になりそうですが、この名称は既にイラストレーターの青井さんがトイラジ改造潜水艦で使用されていますのでmm単位にして「しんかい3300」としました。

制御系

制御系は最終的には右図のようになる予定です。
最初はコントロール入力直結で確認しつつ、徐々にセンサ入力をフィードバックし安定動作を目指します。
有線でも無線でも使えるように制御部への入力信号はラジコンのサーボへの信号フォーマットに合わせます。
センサとしては深度を測るために圧力センサと水底までの距離を測る距離センサで一定深度、一定高度(というのだろうか)での航行をサポート。
またピッチ軸とロール軸の傾斜を検出し姿勢の制御も行います。
図の点線で機能を分けそれぞれ一個のPICを割り当てるつもりです。 機械に頼りすぎるのは良くなかったとコーバックのギルフォード艦長が反省していましたが、自動化できる部分は自動化するつもりです。

駆動系

ここからは妄想だけでなく実際に手を動かします。まずスラスターを試作しました。
写真にあるのはスラスターのパイプの直径が20mmで羽部の直径が25mm、幅が15mmでこれを6V駆動のRF-370モーター直結で動作させたところ、すこしトルク不足のようです。
羽部の幅を10mmとし負荷を減らして直結にしてみました、トルク的には良いようですが羽が小さくなった分水量が減ってしまいました。
トルクと水量を両立させるため二つの羽部を組み合わせる形のスラスターを試作してみます。

次に主推進機、どのモーターを何Vで駆動し、どの程度減速して、どれぐらいの大きさのスクリューを回せばちょうど良い推力が得られるのか全くわからないので、試作一号ではスクリュー直径50mmとしました。これを回しながらモーターや減速比を決めていきます。
スクリューは「しんかい6500」の真後ろからの写真を参考に1mm厚の真鍮板から三枚の羽を切り出し、真鍮パイプにエポキシパテで固定します。
初めは半田付けしようとしたのですが二枚目を半田付けしようとすると1枚目の半田が溶けて取れてしまうのであきらめました。
既に付けた部分の放熱をうまくすれば良いのでしょうが試作なので手を抜けるところは抜きます。また羽自体も本物はねじれが入っていますが、とりあえず平面のままです。

このスクリューをまずはRF-370モーターで6V駆動の直結で動かしてみました。
トルク的にはあまり問題なさそうですが回転速度が早すぎ、マグネットカップリングが追いつきそうにありません。
次に写真のようにギアを入れて減速比4.2:1で動かしてみました。これならば回転速度も落ち推力も問題なさそうです。

モーターとスクリューは普通のRC潜水艦ではスタンチューブを通して直結していますが、3300ではマグネットカップリングとします。
これは磁石の吸着と反発を利用して非接触で動力を伝達する方式です。
これなら水密室の壁越しに動力を伝達することが出来ます。推進に十分なトルクを伝えられるかは実験してみないことにはわかりませんが、水密室にスクリュー軸から漏水してくる事がないので安心です。
棒の両端がNとSになっている棒磁石が手元にあれば良かったのですが、有ったのは裏表でNとSになっているものだったのでカップリングの片側で2つずつ、計4つ使う事にします。
写真のようにH型に組んでいます。Hの垂直部分に2つの磁石を上面がNとSになるように並べ、Hの水平部分はアルミ板で磁石間を固定し中心に取り付け用の穴を開けます。

本物のしんかいは舵で曲がるのではなく、スクリューの方向自体を変更して曲がるようになっています。
この機構は無視してバウ(船首)の水平スラスターだけで旋回するようにしても良いんですが、とりあえず再現出来るものなら再現したい所なのでラジコンカー用のユニバーサルジョイントを使うことにします。
マグネットカップリング、ユニバーサルジョイント、スクリューまでを組んだのが右の写真です。

今までに作った部分を組み立ててバイスで固定したのが右の写真です。
写真では判りにくいかも知れませんが、マグネットカップリングで左右が完全に分離しています。

モーター電圧は3V〜6V、マグネットカップリング間隔は5mm〜10mmで動作テストしました。負荷が大きすぎるのか多少モーターが暖かくなりますがスクリューも問題なく曲げることが出来ました。
負荷はマグネットカップリング部にかかっているようです。ここにはテフロンワッシャーを入れていますが、ちゃんとしたスラストベアリングを入れた方が良いかも知れません。

少し戻ってスラスターを改良しました。
二つの羽部を組み合わせる形のスラスターを試作しました。
まず平ギアを付けた四枚羽のスラスターを二つ作ります。
次にカバーの平面部分を1.2mmプラ板で作り、スラスターを差し込みます。

カバーの曲面部分を0.5mmプラ板で作り、ビニールテープで仮止めしました。
これをモーターに繋ぎ3Vで駆動してみたのですが、一軸のものと比べ水流量はアップしているようです。
とりあえずはこの二軸型でもう少しまともなものを試作してみますが、水流量は今まで見た目だけで確認していましたが、定量的に計るために今後何らかの測定装置を作った方が良いかも知れません。

船体の製作

船体の製作は基礎技術の試作が終わってからと思っていましたが、RC艦隊さんから作りかけのしんかい6500の船体を譲って頂きましたので、船体に関しては半分以上の仕事が終わってしまいました。どうもありがとうございます>RC艦隊さん

右の写真が頂いた船体です。スクリュー部を含まない全長が約50cmで私の狙っていたサイズより少しだけ大きいだけでしたので考えていた機構はぜんぶ入れることが出来そうです。

ただし以下の点は修正を入れたいと思っています。
・セイルにCCDカメラを仕込むことを考えていたとのことでセイルの横幅が広くデフォルメされていますので幅を詰めることにします。
・元の設計ではスラスターを使うことを事を想定していなかったため、スラスターを組み込むための改造を行います。ほぼ完成していた防水ボックスを使うと垂直スラスターを入れる余裕が無くなるため防水ボックスは自作することになりそうです。

内部機構試作

8月末に水中ビークル工学ワークショップでプールで走行させる機会があったのでこれに合わせて、しんかい3300の内部機構の試作機を作り試験走行してきました。
今回作った試作機はこれまでに作ったスラスターやモーター、浮力材、ウエイトをタミヤのユニバーサルボード上に針金やビニールテープで縛り付けただけのバラック潜水艇ですが、本番で入れようと思っている機構的な部分は前後トリムタンク以外は全て含んでいます。

電子制御系が全く手つかずなので試験は各モーターへの供給電圧と極性をスイッチで切り替える方式で行いました。
本番ではPCからUSB経由でコマンドを送りモーターとサーボを駆動し、センサ情報を受ける予定です。

組み立て後、ようやく浮かんでいる程度の浮力に調整します。このとき前後のバランスも崩れないように注意します。

今回の試験で確認したかったことはこれらの項目です。


以下に結果を示します。

・主推進機のマグネットカップリング部分
 水中では水の抵抗のため電圧4.5V以上で高速回転させようとすると、空回りして正常に回転しなくなりました。
 スクリューを低ピッチに変更するかマグネットカップリング間の距離をもっと短くする、または磁石を強力なものに交換すれば更に高回転でも大丈夫かもしれませんが高速回転が必要な場合はマグネットカップリングはあまり適した方法ではなさそうです。
 ただし、現状4.5Vの駆動で十分な推進速度は得られるので、このまま使っても良いかもしれません。

・主推進機のユニバーサルジョイント部分
 これも空中では順調に回転していた曲げ角度でも、水中では空回りしてしまいました。
 空回りしない最大角度で旋回半径は1m程度でした。これにバウスラスターを加えると信地旋回に近い動きも可能でした。
 ただ曲げ角度によりかなり負荷が変わってくる事と可能な曲げ角度が小さいため、クラウンギアを使った動力伝達方式に変えた方が良さそうです。

・垂直スラスター
 今回垂直スラスターは水車が直径25mm、羽幅15mm、羽数4枚、出力パイプ外形18mm/内径13mm、モーターはRF-370としました。供給電圧は1.5V〜9Vで変更できるようにしました、上昇下降速度は9Vで駆動してもかなりゆっくりしたものでしたがスケールスピードを考えれば十分と思います。

しかし、浮力を中性浮力ぎりぎりに調整したとき、深度2.5m程度までは自由に上昇が効くのですが3.3mに着底すると垂直スラスター全開でも上昇しない現象が発生しました。 他の参加者に聞いてみたところ、バラストタンク方式のものでも3.3mに着底してしまうと浮かび上がれなくなることがあるとのことでした。
原因は浮力材の水圧による収縮、水底近くの水流など色々考えられるのですが、スラスター推力をもっと上げてやるしかなさそうです。
垂直スラスターは水車(スクリュー式への変更も含めて)やモーターを変更(RC化も考えるとカーボンブラシのFK-280あたりが適当?)して推力が上がるように改良したいと思います。

また、もう一つ問題として垂直スラスターだけを使い下降させたとき、回転しながら下降することがわかりました。これはおそらく左右のスラスターの取り付け角度に差があるためと思われます。これは取り付けの角度を調整することで修正可能と思われます。

・バウスラスター
 バウスラスターの水車は直径25mm、羽幅12mm、羽数4枚、出力パイプ外形18mm/内径14 mm、モーターはRF-370駆動電圧6V以下で十分旋回してくれました。
 これは変更することなくそのまま使用できそうです。

・前後トリムタンクによる姿勢制御
 これはトリムタンクになるシリンジを持っていくのを忘れてしまったので確認できませんでしたのでお風呂で確認することにします。
ただ50ccのシリンジを前後に各1個使おうとしていたのですが浮力調整時に数gの差で、かなり姿勢が変わりましたので、もっと小さなシリンジでも良さそうです。

・主気密室の3.3mでの水密
 主気密室は現在は主推進機のモーターとギア、マグネットカップリングを入れていますが、将来的にはここに電子制御系やサーボも入れる予定ですので水漏れは致命的です。
 これに関してはシリコンパッキング付きの食品保存容器を流用したのですがマグネットカップリングのおかげで全く問題ありませんでした。

・自作水中モーターの3.3mでの水密
 こちらはモーター軸の水密をバスコークで行っているのですが、モーター軸の水密にはバスコークでは十分ではないようで多少水漏れが見られました。
 スタンチューブとグリスで水密確保した方が良さそうです。

これらの試験結果からまだ多少の問題はあるものの、今の構成でも改良すればも深度3.3mで活動させるための基礎技術は準備できたように思いますのでしんかい3300(仮)の(仮)を外す事にしました。

長くなってきたので、ここらでページを分割します。続きは試作その2です。


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